2014年01月11日

聖夜乙女雪乃 終章(6)

//ネージュ
「いるわっ」

モノクロームの世界にネージュの緊張した声が響き、ネージュは立ち止まると視線を遠くへと移す。

一緒になって探索していた私も動きを止めてネージュの隣へと並ぶ。

黙っているネージュの隣で、私もネージュの視線の先へと集中して探索し始める。

//ネージュ
「どう、何か感じる?」

//雪乃
「う、うん……す、すごい魔力を感じる」

強大な魔力を感じた途端に、私の身体中の毛穴が一瞬で開いてしまった。

こんな魔力なんて今まで感じたことがない。

今までに遭遇したどんな化け物よりも禍々しい魔力を放っている。

『こ、こんな相手と戦えるの?』

まだ出会ってもいないというのに、相手の魔力だけで気圧されてしまう。

まだこちらに気がついていない段階でこの魔力。

臨戦態勢になったら一体どれほど魔力が膨れ上がるのか考えただけでも恐ろしい。

これ程の魔力の持ち主なら、確かにネージュが敗北をしたというのも頷ける。

//雪乃
「ど、どうするの?」

恐る恐るネージュに問いかける。

//ネージュ
「もちろん、戦うわよ」

//雪乃
「だ、だよね」

私は何を聞いているのだろう。

ネージュならそう言うに決まっている。

彼女にとって、倒せるかどうかわからない強大な敵と戦うのはこれが初めてではないのだろう。

勝てないかも知れないからといって逃げてしまっては、化け物と戦う人は誰も居なくなってしまうのだ。

そうなったら、私たちの住む世界は滅茶苦茶になってしまう。

そんなことは考えるだけでも嫌だ。

だったら、私がやることは一つしかない。

//雪乃
「それじゃ、さっさと倒しちゃいますか」

笑顔を浮かべてネージュを見る。

私の笑顔にちょっと驚いた顔をしたネージュは、すぐに真剣な顔に戻してゆっくりと頷く。

//ネージュ
「行きましょうか」

//雪乃
「了解」

//ネージュ
「気配はなるべく殺して、見つからないように移動しましょう」

私たちは頷き合うと、化け物の気配のする方へとゆっくりと歩き始める。

こちらの姿が見つかる前に、先制攻撃が出来れば一番良い。

近づいている最中も、ネージュは化け物の動きを探る為に集中している。

私も真似てみるけれど、化け物のビリビリとした気配に戦う前から体力が削られていくかのような状態になってしまう。

//ネージュ
「無理しないで良いわよ」

//雪乃
「で、でも」

//ネージュ
「相手の様子は私が探るから、あなたは魔力を高めることだけに集中して」

//雪乃
「わ、わかった」

ネージュの言葉に、私は化け物の様子を探るのを止めて、魔力を高めることに集中していく。

//ネージュ
「化け物を倒すのはあなたの一撃にかかってるから、よろしくね」

//雪乃
「こんなときに、そんな冗談言わないでよ」

//ネージュ
「冗談じゃないわよ、私はあなたの魔力を信用してるんだからね」

//雪乃
「うっ、が、頑張ります」

//ネージュ
「うふふ、そんなに緊張して空振りとかしないでよ」

こんな緊張状態だというのに、ネージュは微笑んでくれる。

さすがに何度も何度も死地を潜り抜けているだけあって、私が緊張しているのもわかっているのだろう。

つくづく、ネージュには敵わない。

私一人だけなら確実に相手の強さに驚いて混乱していただろう。

//雪乃
「大丈夫、いけるわっ!!」

グッと拳を握って見せる。

//雪乃
「どんな相手か知らないけれど、一発で倒して見せるわよ」

//ネージュ
「うんうん、頼もしいわね」

そんな風に話しながら、私たちはビルの陰から陰へと移動していく。

無音の世界に私たちの足音だけが響く。

//ネージュ
「そろそろ近いわ」

//雪乃
「う、うん」

見つからないように、私たちはゆっくりと歩く。

ビルの壁に背をつけて、頭を低くしながら化け物へと近づいていく。

//ネージュ
「いた……」

ビルの陰から顔を出していたネージュが相手の姿を見つけて顔を引っ込める。

どうやら化け物は私たちにはまだ気がついてはいないようだった。

//ネージュ
「発見にはずいぶんと苦労したけれど」

//雪乃
「うん……」

//ネージュ
「どうやらまだ女王蟲の子供は孵化してはいないようね」

ネージュが安心しながら告げる。

//ネージュ
「でも、孵化する寸前みたいね」

ネージュが言うように、化け物の腹部が大きく膨らんでいる。

あの中には一体どれほどの化け物が入っているのだろう。

//雪乃
「あれが、女王蟲なの?」

私の言葉にネージュが無言で頷く。

『あれが、ネージュが一人で勝てなかった相手……』

女王蟲をマジマジと見つめる。

まだ臨戦態勢になっていないというのに、とんでもないプレッシャーを感じる。

こんな相手が本気になったら、私たち二人だけで本当に勝てるのだろうか。

自分で言ったクセに思わず弱気になってしまう。

『いやいやいや』

ブンブンと首を振る。

弱気は駄目だ。

ネージュと一緒に戦えば、たとえ女王蟲が相手だって勝てる。

勝てるのだ。

//雪乃
「うんっ、絶対に勝てる」

言葉に出して、私は気合を入れる。

//ネージュ
「頼もしいわね」

//雪乃
「あなたがいるからね、弱気になんてそうはならないわよ」

//ネージュ
「奇遇ね、私もよ」

二人で微笑みあう。

私たち二人ならきっと勝てる。

//ネージュ
「それじゃ、一気に行きましょうか」

//雪乃
「ええ」

コツンと私たちは拳を合わせて立ち上がる。

魔力は身体中に行き渡り、いつでも戦える準備は万端だ。

//ネージュ
「ここで無理に倒す必要はないからね、無理だと思ったら撤退するわよ」

//雪乃
「了解」

//ネージュ
「行くわよ、1」

//雪乃
「2の」

//ネージュ

//雪乃
「3ッ!!」

私たちは一気に女王蟲の元へと駆けていく。

突然現れた私たちに女王蟲は驚いているのか動きが鈍い。

『一気に行くっ!!』

全力で駆け出していた私は、女王蟲の目の前で一気に跳躍する。

女王蟲は私の動きにはついてはこれなかった。

一気に間合いを詰めた私は、女王蟲の頭上から最大の魔力を込めた拳を叩き込む。

//雪乃
「やぁぁぁぁぁっ!!」

拳が女王蟲の頭へとめり込むと共に、気持ちの悪い女王蟲の鳴き声が辺りに響く。

魔力のこもった一撃を喰らって、女王蟲の動きが止まる。

ネージュはそれを見逃さなかった。

//ネージュ
「りゃぁぁぁぁっ!!」

ネージュは女王蟲の真下から拳を突き上げる。

女王蟲の腹部にネージュの拳が突き刺さるが女王蟲はビクともしない。

//ネージュ
「駄目か」

反撃に備えて、ネージュが間合いを取る。

私も無事に着地をしてネージュとは反対側に降り立つ。

//ネージュ
「まだまだいくわよ」

//雪乃
「了解っ!!」

前後から女王蟲へと迫っていく。

初弾が効いているのか、女王蟲の動きは未だに鈍い。

先制攻撃は一定の成果を上げたようだ。

勝負を決めるのなら今しかない。

//雪乃
「このぉぉぉっ!!」

//ネージュ
「やぁぁぁぁっ!!」

攻撃のタイミングが重なり合わないように、私たちは二人で女王蟲を攻撃していく。

何発も攻撃は入っているのだけど、女王蟲はビクともしない。

それどころか、こちらの攻撃など効いてはいないとばかりに反撃を加えてくる。

//雪乃
「あわっ」

慌ててしゃがんだ私の頭上を女王蟲の触手が通り過ぎていく。

激しい轟音と共に風を切り裂いていく触手の一撃に思わず身がすくむ。

あんな一撃を喰らってしまったら、私の首から上がなくなってしまいそうだ。

//雪乃
「こ、このぉっ!!」

怖いけれど、ここで立ち止まってしまったら攻撃を受けるだけだ。

私は自ら触手の中に飛び込んでいく。

接近に気がついて、女王蟲がたくさんの触手を私へと向けて飛ばしてくる。

触手の雨をかわしながら、私は女王蟲の懐へと飛び込んでいく。

『も、もう少しっ』

その瞬間、私の目の前に物凄いスピードで触手が迫る。

女王蟲は触手のスピードに変化をつけていたのだ。

女王蟲の仕掛けた罠に、私はものの見事に引っかかってしまった。

//雪乃
「か、かわせない……」

こっちも全速力で女王蟲の所へと向かっていたので方向転換などいまさら出来ない。

このままでは触手の餌食になってしまうと私が最後を覚悟したときだった。

女王蟲の背中からネージュの声が聞こえた。

//ネージュ
「こっちにも居るのを忘れてるんじゃないのっ!!」

ネージュが女王蟲の背中から魔力を拳に乗せて叩き込む。

体勢を崩した女王蟲の触手は私の頬をかすって、地面へと大穴を開ける。

辺りに砂煙が舞い上がり、女王蟲の視界を塞ぐ。

//雪乃
「てりゃぁぁぁぁっ!!」

土煙の中から私は一気に飛び出して女王蟲の身体へと拳を叩き込み、反撃に備えて後ろへと下がる。

私たちの攻撃をあれだけ喰らっているというのに、女王蟲は倒れない。

//雪乃
「まったく、どれだけタフなのよ」

//ネージュ
「本当ね」

いつの間にか、私の隣に来ていたネージュも忌々しげに呟く。

私たちそれぞれ単体での攻撃はいくら魔力を叩き込んでも効かないのだろうか。

だったら方法は一つしかない。

ネージュもそれがわかったからこそ私の隣に来たのだろう。

//雪乃
「やりますか?」

//ネージュ
「やっちゃいましょう」

背中合わせになっていた私たちは二人で女王蟲に向かって走り出す。

女王蟲が迎撃しようと私たちに向けて触手を伸ばしてくる。

まるで空が真っ暗になったかのように大量の触手が私たちに伸びてくる。

//ネージュ
「当たらないでよっ!!」

//雪乃
「わかってるっ!!」

紙一重で触手をかわしながら、私たちは女王蟲へと接近していく。

もう少しで攻撃範囲ということころで、女王蟲はさらに大量の触手を私たちへと向けてきた。

触手が集まって固まり、まるで巨大な槍のようになって、私たちへと迫ってくる。

//ネージュ
「飛ぶわよっ!!」

//雪乃
「了解っ!!」

呼吸を合わせて私たちは空中に飛んで触手をかわす。

目標を失った触手は止まることなく地面に大穴を開ける。

私たちは地面に埋まったままの触手に着地すると、そのままそれを道にして女王蟲へと迫っていく。

//ネージュ
「やぁぁぁぁぁっ!!」

//雪乃
「てりゃぁぁぁぁっ!!」

女王蟲へと接近して、私たちは呼吸を合わせて拳を女王蟲へと叩き込む。

私たちの魔力を同時に受けて女王蟲が激しく咆哮する。

//雪乃
「き、効いてる?」

//ネージュ
「もう一回いくわよっ」

//雪乃
「了解っ!!」

休む間もなく、私たちはもう一撃を女王蟲へと叩き込む。

女王蟲が苦しそうにうめき、身体を激しくくねらせて苦しんでいる。

やっぱり私たちの同時攻撃は女王蟲には有効だった。

//ネージュ
「この調子で一気にいくわよっ!!」

//雪乃
「もちろんっ!! 逃がしはしないんだからっ!!」

私たちの連続攻撃に耐え切れなくなったのか、女王蟲の動きが徐々に弱くなってくる。

それでも女王蟲は倒れない。

苦しそうに鳴きながらも、女王蟲は触手を私たちへと伸ばしてくる。

攻撃に集中していた私は触手の攻撃に虚をつかれてしまい反応が遅れてしまった。

//ネージュ
「危ないっ!!」

//雪乃
「きゃぁぁっ!?」

ネージュが助けるよりも早く、私の身体に女王蟲の触手が巻きつく。

//雪乃
「は、離せっ!! 離してっ!!」

引き剥がそうとするけれど、女王蟲の触手は私の身体を締め付けて離さない。

触手は私の身体をキツク絞めて上げていき、私の口から悲鳴が漏れる。

//ネージュ
「いま助けるからっ!!」

ネージュが触手をかわしながら私の側へと駆け寄ってくるのが見える。

だけど、それよりも早く女王蟲は私を捕まえたままの触手を自らの身体へと巻き取っていく。

//雪乃
「くっ、きゃぁぁぁぁっ!!」

ズルズルと私の身体が女王蟲の側へと引きずられていく。

私の目の前に女王蟲の顔が迫る。

//雪乃
「ひっ!!」

私はこのまま頭から食べられてしまうのだろうか。

恐怖に顔が歪む私の目の前で女王蟲は大きく口を開ける。

私の頭など軽く入りそうなほどの口内が徐々に私に迫ってくる。

//雪乃
「やっ、やぁぁぁぁっ!!」

//ネージュ
「まっ、間に合わないっ!!」

悲鳴を上げる私の身体ごと、女王蟲は口を開けて私の身体を飲み込んでいく。

飲み込まれた私の目の前が真っ暗になり、恐怖に耐え切れなくなった私はそこで意識を無くしてしまったのだった。



posted by -Noel Valkyrie制作委員会- at 01:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 聖夜乙女-雪乃-
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