2014年01月11日

聖夜乙女雪乃 終章(3)

//雪乃
「あれっ、ここ、どこ……」

自分がいまどこにいるのかわからない。

だけど、何故か恐怖感はなく心は穏やかだ。

空には青空が広がり、私の身体はまるで飛んでいるかのようにふわふわと空中を漂っている。

それは決して不快ではなく、ゆりかごの上にいるかのような安心感があった。

『そうか、これは夢なのか……』

夢でなければこの状況は説明が出来ない。

『こういう夢なら大歓迎ね……』

ふわふわと漂いながら、私は身体の力を抜いてリラックスする。

日差しは温かく、まるで日向ぼっこをしているかのようだった。

『現実でも、たまにはこういう風に過ごしたいなぁ……』

化け物と戦い詰めだった日々を思い出す。

たまにはネージュを誘って、ピクニックに行くのも良いかも知れない。

戦ってばかりだと息がつまる。

ピクニックに行ったって罰は当たらないだろう。

//雪乃
「うん、いい考え」

私は青空の下をたゆたいながら、楽しい日々の事を考える。

こんなにリラックスしたのはいつ以来だろう。

そんなことを思いながら、これは夢だったと思い出して苦笑する。

夢とはいえ、この世界は私を良い気分にさせてくれる。

私はつい鼻歌を口ずさみながら、夢の世界を楽しんでいた。

//雪乃
「あれっ?」

私の顔に影が出来て、視界がさえぎられる。

何事かと視線を上げると、空が徐々に暗くなっていった。

『あらら、雨でも降るのかな……』

せっかくリラックスしているのに、雨が降るのは嫌だ。

だけど、事態は徐々に悪化しているかのようだ。

空はさらに暗くなり、まるで夜のようになっていく。

驚く私の視界の端では太陽が徐々に丸い形に黒くなっていくのが見えた。

//雪乃
「日蝕……?」

突然の日蝕に私は驚いてしまい、暫しの間それを見つめてしまう。

太陽は段々と黒い丸に覆われていき、輝きを失っていく。

幻想的な光景だった。

//雪乃
「うわぁ、すごい……」

日蝕など見たことがなかった私は視線をそらさずにジッと見つめる。

だからなのだろうか、私はそのおかしさに気がついてしまった。

日蝕というのは、地球と太陽の間に月などが入り込む現象のはずだ。

だから影は丸くなる。

それなのに、太陽はまるで黒い液体が染み込んでいくかのようにジワリジワリと黒い部分を増やしていく。

//雪乃
「な、なに……あれ……?」

わけのわからない現象に絶句してしまう。

そうこしているうちに太陽は真っ黒になり、真っ黒になった太陽からは黒い液体が染み出してきた。

私はその光景をただ眺めているだけしか出来ない。

黒い液体は空全体に広がっていき、辺りはもう真っ暗になっている。

そこには、さっきまでのゆったりとした時間などは流れてはいなかった。

//雪乃
「な、なんで……こんなの止めてよ……止めてぇぇっ!!」

わけもわからず絶叫してしまう。

だけど、私がいくら絶叫したところで黒い染みはなくならない。

それどころか、黒い染みはついに地上をも染め出していた。

黒い液体が目の前で拡がっていく。

私の知っている世界の地上が漆黒に染められている。

//雪乃
「なにこれっ、なんなのよこれぇっ!!」

私の目の前で、地上のあらゆるものが液体によって溶かされていく。

ビルが根元から折れて漆黒の海に飲み込まれる。

黒い液体の影響なのか、木々は腐り花は解けていた。

まるで世界を侵食していくかのように、黒い液体の勢いは止まらない。

//雪乃
「いやぁぁぁっ!! 止めて、止めてよぉっ!!」

目の前の現状を、私はただ見つめることしか出来ない。

何かをしようとしても、私にはあの黒い液体に対抗する手段は何一つ無かった。

私は自分の無力さと悔しさから涙を流していた。

その間にも、地上も空も黒い染みに覆われていく。

自分の住んでいる世界が目の前でなす術も無く壊されていく。

それはどうしようもない恐怖だった。

//雪乃
「や、やだっ……こんなのっ……や、やだよぅ……」

恐怖に私の身体が震える。

私がいくら願ったって、世界の崩壊を止めることは出来ない。

だからといって、私には崩壊を止めるだけの力も無いのだ。

//雪乃
「やぁ、いやぁぁぁ……」

黒い液体の海にビルや車が飲み込まれていく。

飲み込まれた物の中にはきっと人間もいるのだろう。

私の目の前にはもう地上は見えず、ずっと黒い海の水平線が広がっていた。

//雪乃
「そ、そんな……こんなのっ……やだ、やだよ……」

私は涙を流しながら目の前の光景に怯え続ける。

完全に恐怖に支配された私は、自分では気がつかないうちに失禁までしてしまっていた。

自分の失禁にも気がつかない位に私は地上の様子に絶望していた。

地上は完全に黒い液体に覆われて、まるで嵐の海のように荒れ狂っていた。

この世の地獄という言葉が良く似合う光景だと思った。

ただただ無力感を感じながら、私はその光景を眺めていることしか出来ない。

その間にも液体の水位は上がり続け、荒れ狂った黒い波が私までをも飲み込もうと襲い掛かる。

だけど、完全に恐怖に支配された私は動けない。

//雪乃
「あっ、あっ……やぁ……」

言葉にならない言葉を呟きながら、ずっと立ち尽くしている。

もうあと少しで黒い波が私を飲み込むだろう。

顔に黒い波しぶきがかかる。

あとはもう黒い波に飲み込まれるだけだという間際、私の耳に誰かの言葉が届く。

この世界に自分一人きりだと思っていた私は、慌てて聞こえてくる言葉に耳を澄ます。

声の主は、誰かの名前を何度も何度も呼んでいる。

耳を済ましているうちに、声の主が呼んでいるのは私の名前だと気がつく。

誰だか知らないけれど、こんな世界で誰かが私を呼んでいた。


posted by -Noel Valkyrie制作委員会- at 00:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 聖夜乙女-雪乃-
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